迷路と迷子と非日常 『四次元温泉日記』

四次元温泉日記

  • 書名:『四次元温泉日記』
  • 著者:宮田珠己
  • ISBN: 978-4480432384
  • 刊行日:2015年1月10日
  • 価格:720円(税別)
  • 発行:ちくま文庫
  • ページ数:294
  • 形態:文庫

『晴れた日は巨大仏を見に』でとても有名?な宮田珠己の温泉「旅館」に焦点を当てたお笑いノンフィクションが本書。

温泉旅館の主役は本来温泉であるはずだが、本書の主役は温泉旅館の建物自体である。

ホテルだとそうでもないが、旅館は建て増しを重ねているところが多く、新館と旧館やらが入りまじり、玄関でチェックインして仲居さんに連れられて部屋に入って窓の外を見ると思いがけない方向の景色だったりしてとても混乱する。

本書には著者の手による、各温泉旅館の館内図が挿入されていて、実はこれが本書の本当の主役なのである。

世の中には迷子になるのが好きな人間とそうではない人間がいる。

私は夜に知らない街を散歩してあわや迷子になるのでは?今日はお家に帰れないのでは?という期待と恐怖が心に満ち溢れるのがとても好きであり、行き止まりに出くわすと大興奮する。

私が結婚をした女性(妻)とも子供が生まれるまではよく夜の街を散歩していた。しかし、我が妻は道が行き止まりになるのが嫌なようで、「ここ行き止まりっぽいね!」と興奮して私が言うとこの人の頭の中が理解できないという顔をしていた。

そんな女性とうまくやっていけるのだろうか、と心配になったが、行き止まりに興奮する夫を見た妻の方がその思いは強かったろう。

しかし、そんな些細な事を気にしているようでは結婚生活は長く続かない、というか、そんな些細な事は日常という奔流にあっという間に流されていってしまう、結婚は驚きと失望と忍耐の連続であり、その中に希望と幸せが詰まっているのだ。

夜の街を散歩していると家々の灯りが目に入ってくる、自分は知らない街という非日常空間にいるが、その街を日常とする私の知らない人々が日常の生活を私にとっての非日常に見える家の中で送っている。

私の知らない日常と私の非日常が家の灯りで繋がる。

温泉旅館の迷路と知らない街での迷子、そんな日常と非日常のあわいをフワフワと漂ってみたいならぜひおすすめの一冊である。

最近は夜の街を散歩する機会が無いので、久々に散歩をしてみよう。そうしよう。

戦国スパイ小説『銀の島』の登場だ!

ginnosima

  • 書名:『銀の島』
  • 著者:山本兼一
  • ISBN: 978-4022647436
  • 刊行日:2014年5月30日
  • 価格:840円(税別)
  • 発行:朝日文庫
  • ページ数:568
  • 形態:文庫

本作はフランシスコ・ザビエル、その従者アンジロウ、ポルトガルの密使バラッタの3人を軸に描かれた戦国時代のお話である。

第二次大戦前にある日本人がインドのゴアである書物に出会うことで物語は始まる。その書物はザビエルの従者アンジロウが書いたもので、ザビエルの知られざるお話が書かれていた・・・

学者か小説家がある町、または村で知られざる真実が書かれている書物に出会う・・・という風にお話が始まるのが私は好きだ。

「これは真実の話です」と読者に思わせるように話が進んでいき、ウソだろ?と思いつつも、別にウソでもホントウっぽく見える方が物語的には楽しいからウソでもいいや、でもやっぱりホントにあったことなのでは?みたいに感じられる小説が好きだ。

私が10代の終わりに読んでいたフレデリック・フォーサイスのお話なんて、みんなそんな感じであった。『オデッサファイル』なんて、ホントとウソが非常にうまく混じり合っていてスゲー楽しかった。

そのフォーサイスの真骨頂がフランス大統領のシャルル・ド・ゴールの暗殺未遂事件を扱った『ジャッカルの日』で、これはホントウに面白かった。でさらに似たような話だとジャック・ヒギンズの『鷲は舞い降りた』もあって、これはイギリスのチャーチル首相をドイツ軍が誘拐しようとする話なのだが、あ、あとグレン・ミードの『雪の狼』もすごかった。スターリンを暗殺しようとソ連に潜入する話で・・・

話が、それた、イヤあんまりそれてないか。歴史の真実が書かれている!みたいに思わせて読者を楽しませるスパイ小説が私は好きだったのだ。

本作『銀の島』で暗殺もしくは誘拐の対象となるのは、中国地方の石見銀山であり、その事件の実行犯になろうとしているのがポルトガル人のヴァレッタ、そしてそれを防ぐ正義のヒーロー?はアンジロウ、で敵か味方がわからないのがザビエルである。

楽しそうでしょ?読んでいる時には気づいていなかったが、これはスパイ小説である。血沸き肉躍る隠密の攻防戦の舞台は第二次大戦でも冷戦でも戦国時代でも面白いのである。

ズームイン朝と山本一力『くじら組』

くじら組

  • 書名:『くじら組』
  • 著者:山本一力
  • ISBN: 978-41676701777
  • 刊行日:2012年7月10日
  • 価格:629円(税別)
  • 発行:文春文庫
  • ページ数:412
  • 形態:文庫

去年の終わりに、義理の父から読まなくなった本を大量にもらったのだが、その中に入っていたのが本作品。

山本一力との出会いは、今から10年くらい前だろうか、何かの賞を受賞して日本テレビの『ズームイン!!朝!』に家族で出演していたのを見たのが最初だった。

自転車で日本テレビまでやってきました、と清々しく話していたおじさんが山本一力だった。

何で朝の情報番組に自転車でやってきたのかは謎だったが、普通のおじさんが家族で出演という事態が頭の片隅に残った。

それから本屋で見かけるたびに気になっていたのだが、このたび義理の父からの縁により遂に読むこととなった。

舞台は幕末の土佐藩。

黒船が土佐沖を走っているのをくじらを捕る漁師たちが見つける。

その漁師たちの集団であるくじら組が江戸に上るまでのお話である。

あらすじとしてはなんてことはない、先が気になるだとか、驚天動地の結末などはない。

だが、いちいち描写が細かく丁寧だ。

最近の歴史・時代小説に慣れていた私は、最初は重いなと思ってしまったが、

その丁寧な語り口が、数年寝かされた古酒のような味わいを醸し出すのである。

なかなか進まない話に、最初は欲求不満となるが徐々にその物語世界に引き込まれていく。丁寧な描写が物語世界の中へ読者を誘っていくのである。

山本一力を毎日読みたいとは思わないが、年に数回読みたくなる作家になりそうだ。

ヤフオクで本が売れた! 佐内正史『massage』

message 佐内正史

  • 書名:『message』
  • 写真:佐内正史
  • ISBN: 978-4582277463
  • 刊行日:2001年4月
  • 価格:新品で5,000円(ぐらい)
  • 発行:平凡社
  • ページ数:-
  • 形態:写真集

ヤフオクで本が売れないと以前書いたがやっとヤフオクで本が売れた。

売れたのはこの『message』と『定本 久生十蘭全集』だ。

『message』は12月に出品して、売れるまで2か月ほどかかった。

1週間出品しては、売れずに再出品を繰り返していたので、売れた時には気づかなかったほどだった。

当初は5,000円ほどで売ろうと目論んでいたが結局落札価格は3,000円。

久生十蘭の方も購入価格12万のところ、落札価格は8万円。

こちらは早く売りたかったのだが、ライバルが出していたので、それよりも安い価格で出せば早く売れると見込んだところ、その通りすぐに現金となった。

『message』の方は思い入れも大きくはないのだが、久生十蘭は何年もかけて集めたものだけになんというか魂を売り渡してしまったような気持ちになったが、読まない本なので魂などと言っては読んでいる人に失礼だろう。

おそらく私の魂がこもっているのは現代教養文庫版の久生十蘭傑作選の方だ、こちらは値段が高くはならないはずなのでヤフオクに出品するという誘惑に駆られることもなく天命を全うすることであろう。

結局大切なものでも使わない高いものは現金にしてしまった方がいい。

はず。

と思っている今日この頃なのだ。

さ迷える34歳-転職大変記 一応完結

おくうたま 岩井三四二

  • 書名:『おくうたま』
  • 写真:岩井三四二
  • ISBN: 978-4334765996
  • 刊行日:2013年7月10日
  • 価格:781円(税抜)
  • 発行:光文社文庫
  • ページ数:469
  • 形態:文庫

去年の終わりに転職がやっと決まり2月の始めに7年務めた会社を辞め、次の日に新しい会社に入社した。

新しい職場になって2週間経ったが、電話サポート応対や出荷業務などに追われず、自分のデザインと開発の仕事に打ち込める環境でとても気持ちよく仕事ができている。

会社の会議にも参加したが、前の会社よりも意見が飛び交いみんな笑顔。

当たり前だが会社が替われば、環境も替わるし仕事の内容も進め方も違うものになる、だから気持ちも変わる。

今のいい気持ちがどれくらい長く続くのかはわからないが、いい気持ちで仕事を進めていかなくてはならないと強くまじめに思う今日この頃なのだ。

転職活動は長かった、でも転職してしまうとその時の記憶や気持ちも遠い彼方に行ってしまう、ずっと転職活動している時の気持ちを引きずっていてもしょうがないが、転職先の決まらない不安感やいらだちの記憶は忘れない方がいいはずだ。

本書は織田信長に攻め落とされそうになっている浅井家の小谷城から浅井長政の庶子である喜十郎が逃れ、京都の瑞石という医師(くすし)のもとに匿われることから話が始まる。

浅井家の復興を目指しながら、瑞石と共に患者を求めて戦場に赴く喜十郎。

浅井家の復興は果たしてできるのであろうか?という流れのお話である。

ラストは、やはりなという展開でベタだなと思いながらも少し目頭が熱くなってしまった。

運命に翻弄されつつも自分の運命を切りひらいていく、と書くとあまりにもベタな表現だが、転職活動で色々な会社の思惑に翻弄されていた私がやっと転職を決めたという事情とも重なり感慨深い読書であったのだ。

ヤフオクで久生十蘭全集は売れないのか、やっぱり。 『定本 久生十蘭全集』

定本 久生十蘭 全集 国書刊行会

  • 書名:『定本 久生十蘭全集(全12巻)』
  • 著者:久生十蘭
  • ISBN: -
  • 刊行日:2008年-
  • 価格:1~7巻:9,500円(税別)、8~11・別巻10,000円円(税別)
  • 発行:国書刊行会
  • ページ数:-
  • 形態:-

お金不足により手も足も出ないので、ヤフオクで使わない物いらない物を2014年の末から売っている。

一眼レフカメラ、電子書籍リーダー、映像編集ソフト、ゲームソフト、マンガなどは出品すればすぐに売れた。

だが、文字だけの本が売れない、売れないったら売れない。

一番高く売れると踏んでいたのだが、全く売れない。

ホントに売れない。

出品しているのはちくま文庫の千夜一夜物語の全集、そして国書刊行会から出た久生十蘭の全集(12巻)である。

千夜一夜物語は1万円行けばいいかというところだが、久生十蘭の全集は1冊が定価10,000円近くになり、それが12冊あるので中古とはいえ100,000円近くで売れてほしいと思っていた。

でも売れないのだ。

久生十蘭を初めて読んだのは大学時代のことだ、現代教養文庫から出ていた久生十蘭傑作選を大学の図書館で読んではまったのである。

それから久生十蘭傑作選をすべて集め、朝日文庫のものも全て買ったのだが、まだまだ物足りない。

数年前に十蘭の全集が出るというので、吉祥寺のパルコブックセンターで予約をした。配本は半年に一回くらいで、毎回楽しみに買っていたのである。

とは言うものの全集は大きくて重たくて高価なので、手軽に持ち歩いて電車の中で読んだりはできない。

私の読書タイムはほとんどが電車の中なので、読むのは文庫本ばかりである。

そんな私が十蘭の全集を集めても全く読まないのはわかっていたのだが、いつか読むかもしれないし、十蘭の全集を持っているという満足感に浸りたいためだけに全て買い集めてしまったのである。

でもしかしである、金欠病になってしまった私には十蘭の全集を持っていることから得られる心の満足感よりも、コンビニに入って食べたいお菓子が買えるというお腹の満腹感の方が大事なのであった。

出品して、落札されて10万円手に入れて幸せになる図を想像していたのだが、売れないんだ。

なんでだ。

だれか買って!

(結局売れました、詳細はこちら↓)

ヤフオクで本が売れた! 佐内正史「massage」

ヤフオクで千夜一夜物語は売れるのか? 『バートン版 千夜一夜物語』

バートン版 千夜一夜物語(全11巻)

  • 書名:『バートン版 千夜一夜物語(全11巻)』
  • 訳者:大場正史
  • 挿絵:古沢岩美
  • ISBN: -
  • 刊行日:2003年-
  • 価格:-円(税別)
  • 発行:ちくま文庫
  • ページ数:-
  • 形態:文庫

ずっと職探しをしていたが、遂に次の仕事が決まった。

2014年は12月26日まで仕事だったのだが、その2014年最後の日のお昼に「採用」のお知らせが来たのである。

実は採用自体はその前の週にもらっていたのだが、給料面で折り合いが合わず断っていたのだ。

理由は、ボーナス額が多すぎるため、月の給料が低いという点である。

ボーナスが多けりゃいいじゃないかと思うが、月の給料が低けりゃ家族を持つ身としては辛いのである。

「ボーナスが多いのは魅力的なのですが、月給が低いので」と断ったのだが、「じゃあボーナス分を月給に還元します、ボーナスは低くなるけど」という回答を12月26日にもらったのである。

面接自体は12月の中ほどに行なっていて、雰囲気やら仕事の内容やらはかなり自分自身の希望と近いものだったので、できれば行きたかった。

だから、ほぼ即決で「行きます!」と答えたかったのだが、一応焦らして、というか冷静になりたかったので「年内考えさせて」と返答した。

会社の大掃除と納会を終えて家に帰って妻に相談した。

「いいのではないか」という答えをもらい、自身でも再度考えて、「行きます!」とメールをしたのが12月の29日だったか。

そして2015年の仕事始めの1月5日、今の会社の上司に「辞めます」と伝えたのである。

上司および社長の反応が「辞めないで!」だったら困るなあと思っていたのだが、反応は案外あっさりしていて「やっぱりな」という顔をしていた。

実際私が辞めると月に50万弱くらい(給与額プラスモロモロのランニングコスト)コストが浮くことになるはずなので、経営が苦しい会社としては痛いと同時にうれしくもあるのだろう。

社長は、私が辞めることに対して「気持ち的には半々です」と言っていた。

なんとか次の仕事は見つかったが、年末年始の忘年会やら新年会やらでお金が必要となり、ヤフオクでいろいろなものを売った。

一眼レフカメラや映像編集ソフトなど。

しかし、小金が入ったために気が大きくなりすべて使ってしまい、また金欠となりヤフオクに再度出品する予定となった。

売るつもりではなかった全集などの本を売ることに決めて、最初の白羽の矢を立てたのが『バートン版 千夜一夜物語(全11巻)』。

以前、ヤフオクで父の遺した10,000円以上で売れるはずだった本を1,000円で出品し、そのまま1,000円で落札され、落札者から「こんな価格ですいません」と言われた苦い記憶がある。

ヤフオクは通常、想定落札額よりも低い額で出品をするが、本を売る場合はちょっと違って想定の落札額で出さなくてはならないという事を苦い経験から学んだのでまず今回は9,800円ほどで出品したのだが、まったく落札されない。

本以外のマンガやらカメラやらはすぐに売れたのに、普通の本をヤフオクで売るのは難易度が高いのか。何度か値を下げているのだが、まだまだ落札されず、なんとも残念な気持ちになっている。

今の会社には大学生気分の抜けないTシャツ主体の恰好で行っているのだが、新しい会社はもう少しキレイな服を着ていかないとまずそう。

だから、新しい会社に着ていく服などを買いたいのだが、それも買えるかまだわからないのだ。

果たしてヤフオクで本は売れるのか?

ひどく落ち着く、軟着陸みたいな 『新版 貧困旅行記』

つげ義春 『新版 貧困旅行記』

  • 書名:『新版 貧困旅行記』
  • 著者:つげ義春
  • ISBN:978-4101328126
  • 刊行日:1995/3/29
  • 価格:590円(税別)
  • 発行:新潮文庫
  • ページ数:281
  • 形態:文庫

確か、大学時代に学校の生協で買って、それ以来数年に一度は読んでいる一冊だ。

蒸発をして九州の看護婦に会いに行く話から始まり、家族3人での旅行の話などが綴られていく。

つげ義春は漫画家であるが、この人の面白いところは漫画からでも文章からでも、そこから感じる印象がほとんど変わらないということである。

最初に読んだ時に文章がうまいなぁと思って、漫画はどんなの描くのだろうと興味を持ち漫画を読んだのだが、なんだろう、独特の間合いというかなんというかその、あれ俺は文章読んでいたのか、いや違う漫画だったかと気づくのだ。

私の好きなつげ義春の作品は家族が出てくるものである、若き日の妻とのお話の『日の戯れ』、『退屈な部屋』などは毎回読むたびにいいなぁと思う。

一人息子が出てくる『散歩の日々』、『無能の人』などは私がひとりっ子の三人家族だったせいか、読むと少年時代を思い出す。

私はつげの一人息子の正助に自分を投影するのだ。

この貧困旅行記にも家族の旅が出てくるが、これ、読むたびに私の子供時代の家族三人での旅行を思い出し、わが父(つげ)はこんなことを考えていたのかななどと思うのである。

今は、我が家も三人家族となり、私の視点は息子(正助)のモノから父(つげ)側のモノに移りつつあり、まあなんというか『無能の人』には憧れるけど、ああはならないようにと転職活動頑張ろうと決意を新たにするのである。

さ迷える34歳-転職大変記

ジャック・フィニィ 『盗まれた街』

  • 書名:『盗まれた街』
  • 著者:ジャック・フィニィ
  • ASIN:B000J8IBXQ
  • 刊行日:1979/3
  • 価格:340円(税別)
  • 発行:ハヤカワ文庫SF
  • ページ数:300
  • 形態:文庫

数年前までは、古本や図書館の本などは知らない人が読んだものなので汚いと思って敬遠していたが、ブックオフの100円コーナーで安さに釣られて本を買うようになってからは気にならなくなった。

だから最近は人から本をもらうことも多い。

君が捨てるなら、僕がもらうよということだ。

この本は、私によく本をくれる大学時代からの友人からもらった。

これは本当にあった話です、というような書き出しから始まる本書は、宇宙人が知らない間に愛する家族になりかわってしまう恐怖を描いたものである。

この物語が世に出たのは60年ほど前で、その当時の人たちにとっては家族が宇宙人になるというのはリアルで結構怖かったのだろうか。

私の会社は今にも潰れそうなので優秀な宇宙人が社長になり代わって危機を救ってくれないだろうかと強く思った、って社長も私に対して同じこと思ってるか。

転職活動はやや停滞気味で12月中に次の仕事が決まる気がしない。

来週に面接があるのだが、なんというかそこに受かってもそこに行くような気がしない、というか転職するという気が少しずつ小さくなっているような気もする。

多分それは、会社が潰れそうながらも私が新しい業務に慣れ始めたのとも無縁ではない。

今までやっていなかったサポート業務や出荷業務に慣れてきて、今までやってきたデザインの業務が今は少ない。

デザイン業務は時間が読めないのだが、サポートや出荷業務にかかる時間というのは毎日ほとんど同じだ。

だから、今では午後7時台に会社を出ることができ、家に帰ると息子が起きていて少し遊べることもあるのだ。

数か月前には考えられなかったことだ。

給料も下がっているし潰れそうなので会社に不満がないというわけではないが、不満が少しなくなり転職へのモチベーションが下がっている状態なのだ。

あんなに辞めたかったのに、どうもよくわからないものだ。

まあ12月というのはセカセカと時間が過ぎ、深く自問自答するような時間もあまりないのでそうなっているだけかもしれない、1月になったらまた転職したい気持ちが膨れ上がってくるのだろう。

義父さん書店 『騎手の一分』

藤田伸二 『騎手の一分』

  • 書名:『騎手の一分』
  • 著者:藤田伸二
  • ISBN: 978-4062882101
  • 刊行日:2013/5/17
  • 価格:740円(税別)
  • 発行:講談社現代新書
  • ページ数:176
  • 形態:新書

妻となる女性の両親にあいさつに行ったのが今から3年前、それから数か月後に私はその女性と結婚し、その女性の両親は私の義理の両親となった。

義理の母とは会話をするが、義理の父との会話はおそらくこの3年で通算10分も行なっていないのではないだろうか。

お互い何を言っていいのかわからない、というかお義父さん側がどう感じているかはわからないが、私は何を喋っていいのかよくわからない。合わないとか嫌いとかいうわけではないのだが、それがいわゆる、義理の息子とお義父さんの関係というものなのだろうか。

たぶん、そこらへんの道端で出会った2人であれば、会話はもっと弾んだかもしれないが、妻または娘という女性を介しての関係はなんつーか複雑なのである。

そんなギコチない2人であるが、競馬が好きなことと読書が好きという共通点がある。

ギコチない2人ながらも、私が土曜か日曜の午後に妻の実家に行くとほぼ必ず競馬中継が流れていて、姪っ子と遊んだり、お義母さんと話したりしている時でもレースの映像だけは目で追っている男2人なのである。

ゴールするとお義父さんが、私に気を遣ってなのかレースの短評などを言い、私も今の追い込み凄いですねみたいなことを返すのである。

ある日家に帰ると玄関に紙袋が置かれ、その中に文庫本がたくさん入っていた。

妻に聞くとお義父さんが古本屋に売るところを妻が私のために持ってきたようだ、ありがとう妻。

欲しいのだけ抜いたら実家に持って行ってあげて、と言われてすぐさま紙袋を開けた。

私は週に1回程度、会社の帰りにつつじヶ丘駅前の新刊書店書原に入り何かよさそうな本がないか文庫コーナーを物色するのだが、最近はお金がないため、新刊書店でチェックしてからブックオフで探したり図書館で探したりするので、欲しい新刊本はなかなか手に入らない。

でもお義父さんの捨てる予定だった文庫本たちは、私が欲しいと思っていた新刊書店の文庫本の半分くらいは網羅しているのではないかというくらいの充実ぶり。

宮本輝の流転の海の最新作の第6部をどうやって手に入れようか考えていたが、なんとその第6部が目の前に。

ああうれしい。

ありがとうお義父さん。

そんな中にあったのが本書である。

フサイチコンコルドでダービージョッキーとなった藤田のJRAに物申すというのが本書の主な内容である。

数年前までは中央競馬の出馬表に藤田の名をよく見かけたが最近では見かけなくなっていて、どうしたのかなと思っていたのだが、何やら騎手に嫌気がさして開店休業中のような状態らしい。

藤田伸二は田舎のヤンキーのあんちゃんみたいで、ジョッキーというのは押しなべてそういう面構えの人が多く、ケンカには絶対負けないかんな!という気合いの入った顔が私はキライではない。

実際馬の背中に命を賭けて乗って仕事をしている人たちなので、そういう面構えになるのだろう。

そんな愛すべきヤンキーあんちゃんが騎手という職業に嫌気がさしているのは寂しい限りだが、これがシービスケットみたいなクセのある名馬と出会い再生するみたいな話の小説が読みたい。

クライマックスは藤田伸二がなんらかの理由によりシービスケットみたいな名馬の命を救うためにアドマイヤのオーナーに頭を下げに行く場面にしたらどうか。

私のお義父さんもそんな競馬小説なら喜んで読むはずだ。