海外ドラマの隠れた名作、または海外の(アメリカ)のチョコみたいな雰囲気 『航路』

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  • 書名:『航路(上・下)』
  • 著者:コニー・ウィリス
  • ISBN: 978-4789724388(上)、978-4789724395(下)
  • 刊行日:2004年12月20日
  • 価格:各950円(税別)
  • 発行:ヴィレッジブックス
  • ページ数:665(上)、647(下)
  • 形態:文庫

転職して初めての今年の夏休みは3日間。3週連続で月曜日に休みをもらい、3週連続の3連休とした。

ほぼ家族と過ごしたが、一日だけ自分のために休みを遣い、街をブラブラとした。

新宿に行こうか、渋谷に行こうか、それとも神保町に行こうか迷ったが結局行ったのは立川。

立川にはオリオン書房と言う立川を占領しているような巨大な本屋があり、そこの本店(モノレールを降りたとこにある)が大学時代からの私のお気に入りなのだ。

ワンフロアーにズラーっと本が並び、気持ちがいい。

だが同じ本屋に1日いるというのも大変なので、ブックセンターいとうの本店に行ってみたのだ。

多摩都市モノレールに乗って中央大学・明星大学駅で降りて、中央大学構内をぶらついたあとに大学近くにある本店まで歩いた。

ブックセンターいとうの本店の隣には復活したバーガーキングがあり、本店の1階はお酒やお菓子などを売っていて地方のヴィレッジバンガードのようだった。

2階(3階だったか)には文庫コーナーがあり、背の高い本棚にズラーっと作者名順に本が並んでいた。

普段行くブックオフでは見かけないようなものも多数あり、全部買おうと思ったが、それなりの値段だったので、自分に落ち着けと言い聞かせ、100円のものだけを買ったのである。

その中にあったのが本書。

カオスなスケジュールとカオスな病院

主人公のジョアンナはマーシー・ジェネラルという病院に勤め、NDE(臨死体験)を研究している。

そのマーシー・ジェネラルにはマンドレイクというノンフィクション作家もいて、同じようにNDEを研究しているのだが、彼は死後の生について超自然的な見解を持つかなり偏向した(トンデモ)おじさんである。

マンドレイクがNDEを経験した患者にインタビューをすると、彼の答えの誘導により、みんな天使を見て、宇宙の真理がわかったような気になってしまい、ジョアンナの研究に使えるようなコメントが取れなくなる。

なので、ジョアンナは常にマンドレイクに汚染されるよりも先に患者にインタビューを試みるのだが、うまく行く時はまれである。

マンドレイクはそんなジョアンナを自分の陣営に引き込もうと常に、病院の中をジョアンナを探して歩いている、その病院も建て増しを繰り返したせいで迷宮のようになっていて、まあもうとにかくグチャグチャなんである。

そんなグチャグチャな状態の中でジョアンナは新しく病院にやってきたリチャードとともに、NDEの研究に邁進するのだが・・・

ダンジョンのような病院の中でマンドレイクから逃げつつ、真実に迫る主人公

建て増しを何回も行った迷宮のような病院の中で、悪役マンドレイクから逃げつつ、真実を捜し求めるという構図は、そのまま本書のテーマである「NDEがなんなのか」という答えに繋がっていくのだが、それは読んでのお楽しみである。

さらに、本書は時間の流れ方の速さがバンバン唐突に変わる、病院で残業をしていたらすぐに次の朝の病院の描写になる。

ここまで時間の流れが変わるのが頻繁な小説ってあんまり私は読んだことがない、映画みたいだ。

と、これもテーマに関わってくる伏線みたいなものなのだが、慣れるまでは少し大変。腰をすえて読んでいれば気にならないと思うが、途切れ途切れに読むとテンポに合わせるのに時間がかかるかもしれない。

わかりやすいキャラクターたちが作る物語は海外ドラマみたい

海外小説を時々読むが、この物語、非常に海外ドラマ(アメリカのドラマ)っぽいなと感じる時がある。

たぶん、それには条件があって、

・現代が舞台であること

・アメリカが舞台であるこ

・主人公はプロフェッショナルだけど、普通の市民として描かれていること

・登場人物の役割分担がわかりやすい

だと思う。

て書くと、ほとんどの海外(アメリカ)の小説が当てはまってしまう気がするのだが、なんかそう感じる時があるのだ、わかるでしょ?ってわからないか。

本書も私が勝手に思い込んでいるこの4つの条件を満たしていてかつ、海外ドラマっぽい。

だからなんだと言われるかもしれないが、海外ドラマっぽいのだ。

海外ドラマをぼーっと見ていて、あれ、このドラマ面白いじゃん、っていつの間にかテレビを消せなくなるみたいな。

夜9時からテレビ朝日でやっているサスペンス劇場みたいなドラマも私は好きだが、あれは完璧に様式美とマンネリの世界で、いわばビジュアル系のバンドとか歌舞伎を見る時の安心感に近いものがある。

海外ドラマってのはそれとは少しちがって、すごくわかりやすいんだけど、火曜サスペンス的な日本の様式美とは違い、なんだろう、たぶん舶来感とでもいうべきなんつーか外国のチョコみたいな味がするのだ、外国のチョコというのはフランスとかベルギーとかの高級品じゃなくて、ハーシーとかの大衆チョコである。

明治とかロッテとかの味とはちょっと違う、意外性のある味がするでしょアメリカのチョコって。

その意外性っていうスパイスを火曜サスペンスにふりかけたような海外ドラマが本書なのである、ってなんのこっちゃ。

ジテタミンとθアスパルシンって?

本書には臨死体験をする際に使うジテタミンと、臨死状態からの復帰?のために使うθアスパルシンという薬物が出てくる。

この物質を使って実際にNDEを再現できるのだろうか、もう実験は行われているのか?と思いながら本書を読んでいたが、あとがきでこの薬物は架空のものであると書かれていた。

残念。

なんだかまとまりがつかなくなったが、この物語、結構面白かった。

たぶんこの装丁(女性が横になってるだけ)と名前(航路って地味すぎるよね)からかなり売れなかったはずで、人気もないはずなのでブックオフの100円コーナーに置いてあるはず、気になる人はぜひぜひ。