勧修寺晴豊が見た本能寺の変『天正十年夏ノ記』

『天正十年夏ノ記』

  • 書名:『天正十年夏ノ記』
  • 著者:岳宏一郎
  • ISBN:978-4062646642
  • 刊行日:1999年9月15日
  • 発行:講談社文庫
  • 価格:638円(税別)
  • ページ数:347
  • 形態:文庫

本書は渋谷のブックオフの100円コーナーで見つけた、『天正十年夏ノ記』という名前のごとく本作のクライマックスは「本能寺の変」であり、本作も数ある本能寺モノのひとつであると言える。(本能寺の変は天正十年[1982年]の夏の出来事)

著者の岳宏一郎(たけこういちろう)は初めて見る名前だったが、他にも戦国モノの小説を書いているらしい。

本作は天皇の秘書官である勧修寺晴豊(かじゅうじはれとよ)を主人公に据え、晴豊たち京都の朝廷と織田信長のやりとりを描いたものである。

本書では、本能寺の変の主犯格の明智光秀の信長殺害の動機は、「信長から与えられたものを、信長から取り上げられたこと」であり、光秀はそれに「耐えられなかったから」としている。

また、光秀の挙兵の情報を掴んでいたかもしれない京都所司代の村井貞勝は信長陣営の人間でありながら心情的には朝廷寄りだったため、その挙兵の情報を信長に伝えなかったのではないか?という推測も本書の中ではされている。

本作の中で信長は冷血な暴君として描かれており、本能寺の変前夜の京都には信長は殺されても仕方がないという雰囲気が流れていたように書かれている。

勧修寺晴豊の妹であり東宮夫人の晴子が主要登場人物だった同じく本能寺の変を扱った安部龍太郎の『信長燃ゆ』と同じような背景を持った主人公(本作は勧修寺晴豊、『信長燃ゆ』は近衛前久)のお話であるが、勧修寺晴豊の残した「日記」(おそらく晴豊公記)を下敷きにしているせいかストーリーは淡々と進んでいく。

大きな驚きや手に汗握るような展開はないが、安心して読める本能寺モノ歴史小説と言えよう。