文禄・慶長の役は暗いんだよな 『黒南風の海』

黒南風の海

  • 書名:『黒南風の海』(くろはえのうみ)
  • 著者:伊東潤
  • ISBN:978-4569760957
  • 刊行日:2013年11月26日
  • 発行:PHP文芸文庫
  • 価格:762円(税別)
  • ページ数:413
  • 形態:文庫

文禄・慶長の役(1592~1598年)で、加藤清正陣営から朝鮮側についた佐屋嘉兵衛と、朝鮮側から加藤清正側についた金宦(良甫鑑)、この日本と朝鮮の2人の主人公の葛藤を描いた歴史小説が本書である。

明を征伐するために、朝鮮半島へ侵略する日本軍の中で、佐屋嘉兵衛は徐々に戦いの大儀に疑問を持ち始める、そんな中朝鮮軍に捕らえられた彼は日本軍への使者の役目をさせられることとなる・・・

結末は文禄・慶長の役と同様苦い。佐屋嘉兵衛と金宦の文禄・慶長の役での活躍を描いた物語なので戦争の後の彼ら2人のその後が詳しく語られないのが残念、その後が気になる。

戦国時代とその前後の時代の歴史小説はかなりの数が出ているはずだが、文禄・慶長の役を主題にしたモノはあまり出ていないはずである。

何故なら、話が暗くなるからである。信長・秀吉に仕え、関ヶ原では勝ち組になった武将を主人公にした歴史小説などを読んでいても、文禄・慶長の役はサラリと流されてしまうことも多い。

あれ、これだけ?と。

加藤清正にしても、小西行長にしても、文禄・慶長の役で彼らがなにを行なったかを書いてしまうとカッコいい武将の物語のはずなのに、あれ、薄汚い政治家に過ぎなかったの?みたいな印象を読者に与えてしまい困るのであろう。

戦国時代のヒーローであるカブキ者・前田慶次郎を描いた『一夢庵風流記』でさえ、文禄・慶長の役の描写に限り非常に暗い気がするし妙に短い、でそのスピンアウトとなったマンガ作品である『花の慶次』ではなんと、慶次郎は朝鮮ではなく琉球に向かっている。

『花の慶次』は『週刊少年ジャンプ』で連載されていたので、文禄・慶長の役は少年たちにはあまりにヘビーだと判断されたのだろう。実際、琉球編から別のマンガ、いい意味でも悪い意味でもジャンプのマンガらしくなった。って『花の慶次』の話ではなかった。

文禄・慶長の役は他国(尾張とか美濃とかの国じゃなくて海外の国)に対する侵略戦争である、戦争が終わって朝鮮半島に泰平が訪れていたら侵略に大儀が生まれて解放戦争という扱いになっただろうが、そうはならなかった。

平たく言えば、日本の軍隊が外国に行って、そこの住民から食料を取り上げ、さらに住民を殺して、その後に何も残さなかったのである、大儀も何も無い。日清戦争から太平洋戦争に至るまでの日本の侵略戦争となんら変わらない。

信長が殺された本能寺の変を頂点として、戦国時代もののネタというのは面白みがなくなっていくと私は考えているが、たぶんそれは秀吉が暗くなるからだろう、なんでこんなに暗くなるか、専制君主は暗いのか、そうか、そういうことか。

「本屋が選ぶ時代小説大賞」を受賞したという帯がまかれているので、エンターテインメント大作と勘違いしてしまうかもしれないが、エンターテインメントならほぼ同じような題材の『徳川家康 トクチョンカガン』(荒山徹)をオススメする。

って、本書が面白くなかったかと言われれば、そういうわけではない、ただ歴史小説や時代小説に爽快感を求めているとするなら、ちょっとオススメできない。読後に気持ちがどんよりするので、心して読むように。