宮本昌孝版影武者徳川家康 『家康、死す』

家康、死す

書名:『家康、死す』(上・下)

著者:宮本昌孝

ISBN: 978-4062777186(上)、978-4062777193(下)

刊行日:2014年1月15日 第1刷

価格:各660円(税別)

発行:講談社文庫

ページ数:355(上)、318(下)

形態:文庫

本作の主人公は『影武者徳川家康』と同じ、世良田二郎三郎。

隆慶一郎の『影武者徳川家康』では家康は関ヶ原の合戦中に殺されたが、本作の家康は松平姓から徳川姓への改姓後にいきなり殺される。

『影武者徳川家康』では家康の身代わりになる世良田次郎三郎(二郎三郎)だが、本作では家康の側近として家康暗殺後に家康に瓜二つの異母弟である恵最を身代わりとしてかつぐ言わば影武者の黒幕的な立場である。

本作の敵役は家康を殺して、傀儡の恵最をその身代わりとして送り込んだ徳川家臣団の誰かである。

隆慶一郎の作品の主テーマは、異論はあるだろうが「自由」と「友情」。
宮本昌孝の作品の主テーマは、これも異論はあるだろうが『ふたり道三』に代表されるように「運命」と「恨み」。

『影武者徳川家康』の世良田二郎三郎は「自由」になりたい自分の気持ちと、「友情」の間で煩悶する。

『家康、死す』の世良田二郎三郎は恵最を家康の身代わりにせざるを得なかった「運命」に対する後悔と、黒幕に対する「恨み」の間で苦しむ。

隆作品に比べると宮本作品の方が暗いのだが、宮本作品は登場人物の情念みたいなものがぐっと迫ってくる。
宮本昌孝の代表作は『ふたり道三』と『剣豪将軍義輝』で、とにかくすごくいい。

で、翻ってこの作品であるが、思いのほか短い。

出てくる有名な合戦および事件は、金ヶ崎の退陣、姉川の合戦、三方ヶ原の合戦、長篠の合戦、そして信康事件である。

本能寺の変、小牧・長久手の戦い、北条征伐、関ヶ原の合戦、大阪の冬の陣と夏の陣などのいわゆる徳川家康が主役の戦いおよび大事件は出てこない。

金ヶ崎から長篠に至る合戦の主役は織田信長であり、家康はあくまでもおまけ・脇役である。

本能寺の変の時の「神君伊賀超え」がクライマックスになるかとも思っていたのだが、本作のクライマックスは三方ヶ原の合戦と信康事件である。

何故信康が殺されなくてはならなかったのかが、『家康、死す』においてはかなり明確に描かれている。

宮本昌孝の作品は読むたびに「短いな、もっと読みたいな」と思うのだが、本作は信康事件が終わると、数ページで物語が終わってしまう。
やっぱり短すぎる。

世良田二郎三郎は死なずに大阪の陣までは生きていてほしかった、世良田二郎三郎の生存バージョンを書いてくれないだろうか。