本能寺以降の秀吉の話は暗い 『秀吉の枷(上・中・下)』

秀吉の枷

  • 書名:『秀吉の枷(上・中・下)』
  • 著者:加藤廣
  • ISBN:978-4167754037(上)、978-4167754044(中)、978-4167754051(下)
  • 刊行日:2009年6月10日
  • 発行:文春文庫
  • 価格:各600円(税別)
  • ページ数:333(上)、348(中)、347(下)
  • 形態:文庫

加藤廣の本能寺3部作の第2作目『秀吉の枷(かせ)』である。前作の『信長の棺』は大田牛一が主人公だったが、タイトルのごとく本作の主人公は羽柴秀吉。

桶狭間の戦いで織田軍団を勝利に導く秘策を信長に授けた秀吉はそれをきっかけに出世の階段を上る、信長から本能寺からの抜け穴を作ることを密かに命ぜられた秀吉は明智光秀が謀反を起こそうとしていることを知りその抜け穴をふさぐことを前野長康に命じる。織田軍団のライバルたちを倒し天下を取った秀吉だが、本能寺の抜け穴を埋めた後ろめたさが彼の後継者問題に暗い影を落とすのだった・・・

というような流れで本書は進んでいく。

本書の軸は桶狭間の戦いから本能寺の変にいたるまでの秀吉の心の変化、なのであるが、そこらへんのことは前作の『信長の棺』でも匂わされていたので、本書ではその種明かしをするという感じである。

本能寺の抜け穴埋め事件が何故起きたのかは、桶狭間の戦いのあとに秀吉が信長に3つのお願いをし、それが全て守られなかったからなのであり、そのお話は同著者の『空白の桶狭間』の方が詳しいし、さらにお話もそっちの方が面白い。

なので本書はあくまでも種明かし的な感じが強い物語で、読むのなら『空白の桶狭間』の方が断然面白い、さらに本作は晩年の秀吉に筆がかなり割かれているので暗い、暗いったら暗い、晩年の秀吉は千利休や秀次などに切腹を命じたり、悪名高い文禄・慶長の役を起こしたりと、とにかく暗いのだ。

ただ、本シリーズで面白いと思ったのが秀吉の思想的な背景をしっかりと描いているところである。

秀吉の前後の天下人である2人が対照的なイメージのため(神をも恐れぬ無神論者の信長は左な感じ、鎖国政策と忍耐が有名な家康は保守的で右な感じ)、秀吉はその2人に挟まれて思想的にも左でも右でもなく中道という印象を持っていた。

しかし、秀吉を山の民出身とすることで、秀吉は天皇を頂点とする神道的な思想を強く持っていたのでは?という仮説が面白い、そう来るか、そうなのか。

で、本作は3部作の2部作目ということで3作目になる『明智左馬助の恋』はどんなお話になるのであろうか、お話的にはこの『秀吉の枷』で終わりという感じがするのだがまだ続きがあるのか、何か秘密があるのなら楽しみ。