ハイペリオンシリーズの続編・・・ではないんだけど 『宇宙船とカヌー』

宇宙船とカヌー

  • 書名: 『宇宙船とカヌー』
  • 著者: ケネス・ブラウアー
  • 訳者: 芹沢高志
  • ISBN: 978-4480022363
  • 刊行日: 1988年6月28日
  • 発行: ちくま文庫
  • 価格: 950円(税別)
  • ページ数: 420
  • 形態: 文庫

本書は理論物理学者のフリーマン・ダイソンとその息子で科学史家であるジョージ・ダイソンを主人公とした、伝記ノンフィクションである。

著者はジョージ・ダイソンと一緒にカヌーでの旅などをしていたケネス・ブラウアーというノンフィクション作家である。

本書が普通の伝記モノと大きく違うのは、主役となる人間が2人いて、その2人が親子であるということである。

フリーマン・ダイソンと言えばダイソン・スフィアやダイソン・ツリーなどのSFでよく使われる小道具を考え出した人として私は記憶していたが、実際には物理学者であり数学者であり、原子力発電の研究にも携わっていたという、まあつまり科学界の有名人である。

伝記モノらしくダイソン親子の生い立ちなどにも触れつつも、ページの多くはジョージ・ダイソンのカヌー(カヤック、バイダルカ)を中心として話は進んでいく。

科学技術で宇宙のフロンティアを見つけそこに小さな共同体を作ることを夢見る父、カヌーによって地球のフロンティア(主に北極圏周辺)を旅しそこに小さな共同体を作ることを考える息子。

物理学の世界で生きる父と、カヌーの世界で生きる息子であるが、目指すものは非常に似通っているというのが面白い。

本書を前に読んだのは今から10年前、当時私は独身であった。だから私は息子であるジョージ・ダイソンに自分を投影して読んだ、しかし私には数年前に息子ができたので、今回は父であるフリーマン・ダイソンに自分を投影して読んだ。

わかりあおうと努力する父と息子、でもお互いに理解しがたい壁があり、でも他人から見ると2人は双子のように似通っているというかそっくりである、という関係。

私は息子(4歳)と仲がいいと思っている、ケンカをするとときもあるが、ダイソン親子のように数年間会わないというような関係でもない、というかそんな風になる時が来るとは想像しにくい。

だがまあしかし、息子が思春期に入ると私のことを「オヤジ」とか呼び始めてヒゲとか生えてきて、少し臭くなってくるんだろうな、ああ悲しい。で、結局息子は私の元から離れていくのだろうか、寂しいな。

で、最初に本書を読んだ10年前はちょうど、ダン・シモンズの「ハイペリオン」シリーズを読み終えた直後だった。

シリーズの後編の主人公の1人であるエンディミオンはカヤックで宇宙をめぐる川を下る旅に出るのだが、そのエンディミオンにジョージ・ダイソンが重なり、さらにハイペリオンシリーズに出てくるアウスターという種族はフリーマン・ダイソンの哲学を実地で行くように自分たちの体を宇宙空間に適用させて進化をしている、さらにシリーズの重要な乗り物となるイグドラシルはどう見てもダイソン・ツリーである。

「ハイペリオン」シリーズは私の読書体験の中で一番の興奮と楽しさを与えてくれて、まあとにかく面白かった。それを読み終えて放心状態になっていて、かつ続きが読みたい!という欲求が強かったからなのか、本書はハイペリオンの続編なのではないかと思いつつ読んだ記憶がある。

実際、ハイペリオンシリーズの続編かもというべき「イリアム・オリュンポス」シリーズはちょっと違うなと思ったし、ハイペリオンシリーズの本当の続編である「ヘリックスの孤児」は短すぎて歯ごたえが無さ過ぎた。

だから、本書はハイペリオンの正しい続編である、ってなんのこっちゃ。

本書は1978年に発表されベストセラーになったようだが、それをダン・シモンズが参考にしなかったという保証はない、まあ「ハイペリオン」シリーズの続編がハイペリオンの発表(1989年)の10年前に書かれているというのはおかしな話だが、まあとにかく何かが似ているのだ。

当時も似ているなと思って何が似ているかよくわからなかったのだが(カヌーとかダイソンの考えたアイディアとかが出てきているという以上に何かが似ている)、今回読んで、確かになんか似ている気がするのだが何が似ているのはやっぱしよくわからなかった。

本書のタイトルである『宇宙船とカヌー』ってハイペリオンシリーズの副題でも通じるかも、実際には「宇宙船とカヌー、時々シュライク」になるはずだけど。

SF書評家の大森望あたりがそんなこと書いていないのかな。

本書の主役の2人はまだ生きていて、フリーマン・ダイソンはこの動画(フリーマン・ダイソン「太陽系の外れに生命を探そう」)の中で動いて喋っている。興味がある人はぜひ。

この動画の中でフリーマン・ダイソンは宇宙の生物について語っているが、息子のことにも触れている、まあ見てみて。

あ、これは「ハイペリオン」シリーズの続編なんだぁ!と強引なことを私は言ってるんだけど、シュライクとアイネイアーは出てきません、あしからず。