小説なのかノンフィクションなのか 『ヨーロッパに消えたサムライたち』

サムライではなく武将か

  • 書名:『ヨーロッパに消えたサムライたち』
  • 著者:太田尚樹
  • ISBN: 978-4480422958
  • 刊行日:2007年1月
  • 発行:ちくま文庫
  • ページ数:327
  • 形態:文庫

戦国~江戸期の大名であった伊達政宗がスペインとローマに使節団を送った、その使節の1人である「支倉常長(はせくらつねなが)」がこの本の主人公である。

本書には支倉常長がヨーロッパに行き、帰ってくるまでの10年弱の間の出来事が綴られている。

鎖国とキリスト教禁止が目前に迫っていた江戸時代初期、欧州に渡った日本人が果たした異文化との接触はおおいに興味深い。

その後の日本の鎖国のためか、支倉使節の旅の詳細がしっかり伝わっていないのが悔やまれるところではあるのだが記録と想像を使って描かれる旅の描写はそれなりに面白い。

記録に残されていないところは想像と推測で補うしかないのであるが、この本においては想像の領域が結構多く好みの別れるところかもしれない。

いっそのこと小説仕立てにしてしまった方がよかったのではなかろうかと思ってしまう。

タイトルの「ヨーロッパに消えた~」というのは、日本に帰った支倉常長とは別にスペインの地に残った使節団の一員の事を示す。

彼らの実態は明らかではないのではあるが、著者は彼らがセビージャ近くに集団で住みはじめたのではないかという推測を立てている。

このセビージャの周辺にはJapon(ハポン)の姓を持つ人がいるようなのである、ハポンとは言うまでもなく日本の事である。

“Jesus Sanchez Japon(ヘスス・サンチェス・ハポン)”というサッカー選手がスペインのプロサッカーリーグにいたのだが、彼も日本人の血を引いているのかもしれない。

日本人の血が流れている一族がスペインにいるという仮説は日本人である私にとってナショナリズムをくすぐられるような事態でもあるのだが、単純に鎖国という封建的なイメージの強い江戸時代にヨーロッパで暮らす事になった日本出身の人達がいるという事実自体が面白いと思う。

ちくま文庫の「学術系」モノに対して、大学の教授のような人が書いている本はワリとお堅くて内容がかなりパッとしない、というイメージを持っていたのだがこの本は有意義な読書時間を提供してくれた。

でも、ノンフィクションなのか小説なのか、というところを脱していないのでどうにもオススメしずらい今日この頃なのであります。