鉄塔文学の大傑作が生まれる予感 『鉄塔 武蔵野線』

鉄塔

  • 書名:『鉄塔 武蔵野線』
  • 著者:銀林みのる
  • ISBN: 978-4797342642
  • 刊行日:2007年9月21日
  • 発行:ソフトバンク文庫
  • ページ数:496
  • 形態:文庫

「鉄塔武蔵野線」に初めて出会ったのは15年ほど前の夏休み(学生時代)の事だったと思う。

予定の無い日だったので、朝遅く起きてテレビをつけた、特に観たい番組があったわけではなかったし面白い番組があったわけではなかったのでNHKの衛星放送にチャンネルを回すと映画「鉄塔武蔵野線」(監督:長尾直樹、1997年)が放送されていた。

鉄塔に興味を持つ少年が、近所の鉄塔がどこまで続いているのか?という疑問を持ち鉄塔を辿って行くという至極シンプルな作品であった。

「少年の夏休み」が凝縮されたような映像が続き、私は息苦しくなりしばらく観てからテレビを消した。

別に「少年の夏休み」が不快だったわけではなく、うらやましかったのだ。

当時の私は鉄塔に興味を持ちただひたすらに鉄塔を辿って行くような気力と情熱が無かった、少年のその情熱というものがうらやましく眩しかった。

さらにこっちは今日の予定が無い、夏休みの午前中なのに。この映画好きだけど、なんだかこれ以上観ていたら居たたまれなくなり切なくなるなと思って消したのだ。

今度観よう、と思った。

そしてそれから数年後、レンタルビデオ屋で私は「鉄塔武蔵野線」のビデオを借りたのだ。

しかし、その時ビデオで観た映画「鉄塔武蔵野線」の感想は「なんだか鉄塔が映っているだけだな~」というものだった。

もう少し面白いと思ったのだけどな~、やはり観る時期が重要だったりするのかな?と考えた。

こちらとしては衛星放送でチラリと観た時の感動のようなものが残っているので、それでもまだ「鉄塔武蔵野線」への興味が消えたわけではなかった。

原作があるのも知っていたのでいつか読もうと思っていた。

そして『鉄塔武蔵野線』の文庫本が出版されたのである。

結構前に新潮文庫から文庫化されたのだが、それからかなりの変更を経て復刊されたのである。ソフトバンク文庫から復刊である、ソフトバンク文庫って・・・なんじゃそりゃ。

少年が鉄塔を一つ一つ辿り、その鉄塔の写真がページ毎に掲載されているというような形態の本である。

文章を読んでも、写真があるのでそっちに目がいってしまいちょっと集中がしにくい読書となってしまった、文章もあまりうまいとは私は思えず、どうにも「うーん」であった。

筆者の銀林みのるをネットで調べるとこの作品以来作品を発表していないようだ(未単行本化の物語が一本あるようだが)。

今何をしているのかはよくわからないのだが、ヒマなはずである(たぶん)。

鉄塔という題材自体は面白いと思うし、鉄塔の美しさと魅力はこの本から伝わってくる。

だから、もし銀林みのるさん、仕事がないならこの『鉄塔武蔵野線』から派生した続編だったり外伝だったりを作ったりして、色々な鉄塔作品を生み出してみたらいかがでしょうか。

多分、その沢山の作品の中からホントウの鉄塔文学の大傑作が生まれると思いますよ、なんつって。