文庫に文字が詰まっていた時代 『額田王』

額田王

  • 書名:『額田王』
  • 著者:井上靖
  • 刊行日:1972年10月30日
  • 発行:新潮文庫
  • 価格:440円
  • ページ数:479
  • 形態:文庫

書影を見てもわかるとおり、結構古い文庫である。毎度のごとくブックオフの100円コーナーで購入した。

帯が真っ赤でタイトルは「テレビ朝日系放映」、そして説明文が簡潔に書かれている。かなりシンプルな帯で最近はあまり見ないタイプだ。

今風の帯にするならテレビ朝日で何日の何時からスタートなのか、主演は誰だとか、そのテレビドラマの写真とかも丸く切り取って載せることだろう。

でもこの帯は青っぽい本の表紙に真っ赤な帯で鮮烈、キレイである。帯に隠れている表紙の絵も物語世界を忠実に表しているように見えてカナリ良い。

1972年に出て440円だったものが、現在ではいくらになっているのだろうか、さらに表紙もアニメっぽくなっているのだろうなと思ってAmazonで検索してみると今出ている版もなんと同じ表紙であった。

やっぱ表紙のセンスがいいから、変える気しないんだろうな。

しかし価格が907円になっていた・・・当時が440円だから倍の値段である。

さらにページ数も522ページと当時の479ページから43ページも増えている。ページが増えているということはエピソードが追加されているのかと思ったが違うということに気づいた。

おそらくだが、文字の大きさが現在の版のほうが大きいのである。だからその分ページ数が増えているのだ。

昔の文庫を読んでから最近の文庫を読むと字の大きさの違いに驚くことが多い、たぶん今の文庫の文字の大きさは当時の『額田王』の倍くらいの大きさである。

昔の小さな文字サイズのほうが今の文庫本よりもぎゅっとお話が凝縮されているような気がする。文字が大きすぎるとなんだかお話も間延びしてしまうように感じる。

本書は2人の天皇に愛された歌人額田王の生きた時代を描いた歴史小説。井上靖の硬質というか淡々というか何というかなんだろう、笑いの少ない、いやスキの少ない、なんつーかうーん、うまい表現が見つからない、あ、文章がうまいんだ、って文豪に失礼か。

とにかく、結構面白かった、表紙を一新して新版で再度発売したら、この表紙版の古書価はあがるだろうなって、死ぬほど流通しているだろうからそんなことないか。